ワンオペ歯科医院サポート実例

この記事まとめ
(1)開業までの経緯(インタビュー)
(2)開業のワナとリスク回避としてのワンオペ歯科医院
(3)狙い目は「引退先生の居抜きのM&A」
(4)内装、設備のコスト削減ポイント
(5)ワンオペ歯科医院、スタッフは必要か否か
(6)ワンオペ歯科医院、運営の工夫
(7)ワンオペ歯科医院、初年度のキャッシュフロー
(8)ワンオペ歯科医院、各年毎のキャッシュフロー
(9)ワンオペ歯科医院は究極の効率化、規模拡大に役立つ
(10)まとめ
※この記事は勤務歯科医師から歯科医院を開業するまでのサポートケースです
※プライバシー保護のため氏名や名称などは仮名を使用しています
(1)開業までの経緯(インタビュー)
Q(弊社) 歯科医師を志したきっかけありましたら教えてください
A(鈴木先生) 歯科医になるきっかけは、県立トップの進学高に通っていたので、まわりに国公立の医学部志望が多かったからです。自分も学費の関係で国立医学部を狙ってはいましたが、2浪してしまい、このまま多浪していくのが怖くなって、3浪目は歯学部に切り替え合格できました。
心残りは少しありましたが、気持ちを切り替えて歯科医になろうと決心しました。
Q(弊社) 学生生活や国家試験はいかがでしたか
A(鈴木先生) 国立の歯学部には、自分と同じような、国立医学部狙いの変更組が割といました。また、変わった人では、工学部を卒業・就職した後に歯学部に再入学してきたアラサーの人もいて、あまり年齢は気になりませんでした。 女子は3割くらいでした。
単位や実習はそれなりに大変で、まわりに助けてもらった記憶があります。
歯科医師国家試験は2回目でパスできました。 最近は合格率が6割近くまで下がってきているので、今だともっと苦労したかもしれません。
Q(弊社) インターンやその後の勤務についてお聞かせください
A(鈴木先生) インターンと附属病院で4年くらい勤務しました。
その後、ドクターが5人、DHと助手含めて20人くらいの歯科医院に入りました。
そこは院長先生がオーナーでした。院長先生は、診療を行い、他ドクターやDHの指導をして、研修をして、採用をして、と、とにかく忙しそうでした。
DHや助手同士でもめごとが起きたら仲裁して、ときにはバーベキューの企画までやって。 開業となると、自分の時間を犠牲にする覚悟が必要だなと思いました。
Q(弊社) 開業のきっかけがありましたらお聞かせください
A(鈴木先生) 勤務していた歯科医院での院長先生の多忙極まる姿を見て、勤務の方が気楽でいいかもと思い始め、開業にはしばらく踏み切れませんでした。
開業を再び考えるようになったのは、待遇に不満がでてきたからです。
一つきっかけがあり、高校時代の友人との飲み会で、同席した中で、自分の給料が低いということに気づかされたのです。 同席の友人は、整形外科の勤務医、銀行員、メーカー社員、公務員などでした。 自分には会社員のような毎年の昇給はなく、このまま収入が変わらないままではよくないな思うようになりました。
Q(弊社) 開業するにあたって、不安に感じたことはありますか
A(鈴木先生) 大ありです(笑)
最大の不安は、開業して忙しくなって自分の時間がなくなることでした。
仕事そのものは好きですが、四六時中仕事というのもマイペースな自分の性格に合いませし、この仕事はストレスがたまりやすいので、休むことも大切です。
もう一つはお金の不安です。
勤務時代の歯科医院では、内装や設備にお金がかかったからか、自由診療を進めるように指導されていました。 同僚によれば、「2億近く借金があり大変らしいよ」とのこと。
開業するためのお金をどうやって用意するのか見当もついていませんでした。
(インタビュー終わり)
(2)開業のワナとリスク回避としてのワンオペ歯科医院
開業を決意した鈴木先生がその後、どのように軌道にのせていったか、順を追って解説していきます。
他の業種と比べて歯科医院の経営は安定しています。
すべての人は虫歯や歯茎のメンテナンスを定期的に必要とするためです。
よく例えで、「コンビニより歯科医院が多い」と歯科医院が過当競争で経営難になっているかのような記事をみかけますが、廃業する歯科医院はコンビニの廃業数よりかなり少ないのです。
ただし、廃業しないまでも経営が苦しい歯科医院が多いのも事実です。
鈴木先生が勤務した中規模の歯科医院でも経営が大変なことがうかがえます。
歯科医院の経営を苦しめる原因、それは過剰投資です。
過剰投資になりがちなのは、賃料と内装の過剰投資、医療器材の過剰投資、そして雇用の過剰投資、の3つです。
賃料と内装の過剰投資は、賃料水準の高額なエリアへの開設、想定される来患数に比べて広すぎる面積、そしてホテルのエントランスのような豪華すぎる内装です。
新規で開設する場合、歯科医院は、家賃の高い繁華街よりも、居住人口の多い住宅街の方が向いています。住宅街は家賃水準がリーズナブルで、評判が良ければ家族も通ってくる口コミ効果があります。
歯科医院内を豪華にしすぎるのは禁物です。
たしかに患者様の印象は良くなるかもしれませんが、立地条件と規模、診療内容が近い2軒の歯科医院、それぞれの来患数と売上を比較したことがあります。
一つはシンプル内装、もう一つは豪華な内装でしたが、来患数と売上ともに明らかな差異はありませんでした。 比較した豪華な内装の歯科医院は、期待したほど来患数の伸びず経営難となり弊社が相談を受けたケースでした。
医療器材の投資も過剰となりがちです。
歯科医院で使う機材1点で、数百万円、なかには1千万を超えるものが多くあります。
それをまとめて導入するとすぐに1億円の大台に乗ります。
診療に必要な器材は当然として、
歯科器材を扱う会社は、できるだけたくさんの機材を売り上げようと、過剰な設備計画を立てる傾向があります。
そのツールに使うのが、「バラ色の開業計画」です。
経営難に陥った歯科医院からの相談では、まず開業計画に遡ってチェックしますが、実態と比べて明らかに過大となっている計画が多いと感じます。
機器や設備は導入したらおしまいではありません。
定期的なメンテナンスが必要で、医療機器は交換サイクルが早いため、頻繁に買い替えが発生します。
歯科器材を扱う会社は、できるだけ器材を販売したい営利企業であり、営業担当者も同様です。 歯科商社のために働かされている歯科医院は実に多い、というのが実態です。
(3)狙い目は「引退先生の居抜きのM&A」
鈴木先生は当初、歯科開業コンサルの進めで、都心立地の新築ビルの路面階へ新規開設を検討していました。
いま新規で歯科医院を開設すると、東京都心ではかなり小規模であっても1億円の初期投資が必要です。
鈴木先生は、莫大な借入金の不安が拭いきれずに弊社に相談され、新規開設か居抜きのM&Aかを比較して、投資額を抑えられる居抜きのM&Aを探すことに方針転換しました。
引退する歯科の先生の医院をM&Aで買い取る方法では、
初期投資は半分以下、借入金も半分以下で開業できます。
初期投資が半分以下で済むのは、次の理由です。
- 構造を変える大がかりな内装工事が不要
- 老朽化した機材だけの交換で済む
- 既存の患者様がおり少ない宣伝広告費で済む
- 保健所など認可手続きを大きく減らせる
小規模な歯科医院の居抜きM&Aは、500万円から2000万円と良心的に提供されています。
安く提供されるのは、売却する側の引退先生にも退去費用を節約できるメリットがあるからです。医療施設は特殊な構造のためテナント退去にあたっての回復費用が高額となり、小規模でも200万以上かかることがあります。
居抜きM&Aの価格は、器材の使用価値に比例して決められる傾向があります。
安い案件は機材が古く引継後の投資は多くなり、高い案件は内装器材ともに新しいものが多く交換が少なく済みます。
例え内装が古く、機材が老朽化していたとしても、昨日まで診療を行ってきたわけですが、使用に支障はありません。多少の手直しと買い換えで済ませることもできます。
居抜きM&Aでは、引退先生の持つ患者様リストを引き継ぐことができますから、宣伝広告費を大きく節約することができます。
新規開院の場合、認知度ゼロからのスタートですから、継続して毎月100万円ほど宣伝広告費が使われています。
居抜きM&Aの場合、何十年とかけて地元で引退先生が築き上げてきた知名度があり、認知させるための宣伝広告費が必要ありません。
歯科医院にとって宣伝広告費はバカにならない費用です。ここを節約できれば経営は確実に改善します。
保健所などの認可が簡素になるのも大きなメリットです。
新規開設の場合、保健所へ申請してから認可が下りるまで約半年はかかります。認可が下りるまでは診療ができませんが、半年間の賃料が発生しその負担はバカになりません。
その手続き費用自体も高額です。
引退先生からの引継であれば名義の書き換えだけで済み、引継直後から診療を行えるのでムダな賃料などは発生しません。
居抜きM&Aにもデメリットはあります
- 探し始めてから決まるまで時間が長くなる
- 出物に限定されるため場所を選びにくい
- 案件の評価が難しく、外れを引くリスクがある
引退する先生の時期や場所に影響を受けるためこれらのデメリットはありますが、歯科医師の高齢化とともに引退先生は増えつつあり、時間をかけられるのであれば気に入った場所や物件を選ぶことも可能になってきています。
鈴木先生は、時間をかけて引退先生の居抜きをM&Aで手に入れることにしました。
勤務を続けられるため収入面の不安はなく、大部分は弊社がサポートするため手間もかかりません。
(4)内装、設備のコスト削減ポイント、資金調達
鈴木先生は、居抜きM&Aの候補から5件を実際に見学させてもらい、一つに絞りました。
選んだポイントは、家賃が低くランニングコストが抑えられること、カルテ数が延6000人と多いことでした。 M&Aの価格が安かった代償として、内装と器材が古くコストがかかりそうですが、それを考慮しても、事業計画として、引継直後から安定した経営が見込めます。
内装と器材は、30年ほど経過しているため、かなり老朽化し清潔感も感じられません。
できるかぎり少ない予算で、少なくとも清潔感を感じられること、鈴木先生が使いたい機器以外は最低限の設備交換を行うことを方針として工事と器材入れ替えを行いました。
開業時の費用内訳
項目 | 金額 | ポイント |
法人買取り | 6,500,000円 | 仲介手数料を含む |
内装・看板 | 7,000,000円 | 人目につく壁紙や床タイル交換、照明、トイレや手洗いの交換など最小限に抑えた |
歯科ユニット一式 | 6,000,000円 | 残置3台あるうち、最も古い1台を新品に交換。残り2台はクリーニングして当面使用 |
滅菌器・洗浄機 | 1,000,000円 | 劣化が進んだ1台を新品に入替 |
3Dパノラマ | 11,000,000円 | 引継品に旧型のX線装置があったが、精密な自由診療を行うため新型を導入 |
サージテル一式 | 1,000,000円 | 引継品に無かったため附属品とセット購入 |
高周波モジュール、歯科吸引機、コンプレッサー | 500,000円 | 引継品について消耗品の交換やメンテナンスを行うことで節約 |
その他 | 1,000,000円 | モニターやパソコン、消耗品など事務用品は使いなれたものを購入 |
合計 | 34,000,000円 |
器材関係では、一品ずつ吟味して使用に耐えうるものはそのまま使う一方で、自由診療の伸びしろに期待して3Dパノラマ撮影装置を新規導入するなど、限られた予算内でも強弱をつけました。
システム関係は、効率的な運営のために、大幅に見直しを行いました。引退の先生が使っていたレセコンはリース期間が少し残っていましたが、月額定額ですむクラウド型にしました。引退先生が紙で残していたカルテデータは、5年以内に来院歴がある方のみに限定して電子カルテアプリに外部の人に入力処理してもらいました。
改装や設備の入替含めて、トータルで3,400万円となりました。
内装は構造部分には手をつけず、表面的な手直しのみ行いました。複数の専門業者に見積りをとり、予算のわりには見違えるほどきれいな内装に仕上がりました。
資金調達について、鈴木先生の自己資金が少ないというハンデはありましたが、事業計画をたて銀行に事前相談を行っていたため、運転資金を含めて4,000万円の融資を問題なく受けることができました。
(5)ワンオペ歯科医院、スタッフは必要か否か
鈴木先生は、ワンオペで歯科医院を運営すると聞いて当初は半信半疑でした。
- スタッフゼロで業務がまわるのか?
- 自分の時間が全て仕事の犠牲になってしまうのでは?
いままで歯科医院の運営イメージとは異なっているため、違和感はあったようです。
ワンオペ歯科医院で始める理由は、
例え一人でも運営できる無理しない規模でスタートして、
充分な利益の確保と健全な経営を実現しながら発展させていく、ことにあります。
ワンオペで運営していくために工夫が必要ですが、不可能なことではなく実践できている歯科医院ももちろんあります。
ワンオペ歯科医院は人手不足という社会構造からやむを得なく生じた形態です。
スタッフの採用や雇用において、歯科業界はとても難しい状況に置かれています。
歯科医院で要となる歯科衛生士は、資格者は一定数いても、歯科医院に勤めたいという希望者の絶対数が足りていません。
歯科衛生士が定着しない最大の理由は、低賃金です。
多くの一般企業では、定期昇給があり勤務年数に比例して給与が上がっていくことが多いのですが、歯科医院では定期昇給を行う体力がないところが多いです。
20年勤務しても給与がほとんど増えていない歯科医院もザラです。
このような状況のため、仮に採用ができてもすぐ退職することが多く、歯科衛生士の定着に多くの歯科医院は苦しんでいる状況です。
ワンオペ歯科医院は、人手不足への一つの対応策です。
院長一人きりで全ての業務をこなすというよりも、必要に応じて外部のマンパワーを活用し、繁忙期には臨時のスタッフの活用で補う体制作りにあります。
患者様が増えて経営的に余力が生まれたら常勤のスタッフを雇いワンオペ歯科医院を卒業しても良いでしょう。お給料を高く出せる歯科医院であれば、採用に困ることはありません。
(6)ワンオペ歯科医院、運営の工夫
鈴木先生が選択した居抜きM&Aでは、引退先生からの引継ぎに際して、従前から勤務されていた歯科衛生士1名、受付助手1名が在籍していました。
可能であればそのまま勤務できないかと意向を聞いたところ、お二人とも高齢であることや家庭の事情もあり、長く勤めることは難しいとのことで、話し合いにより、歯科衛生士は3カ月、受付事務は6カ月、勤務後には退職することになりました。
それでも、スタート時点ではワンオペ歯科医院の体制が整っていないこともあり、鈴木先生自身も初めて経営者となるためわからないことが多く、とても助けられたそうです。
在籍スタッフ2名がしばらく在籍しましたので、
スタッフが在籍している間に、生産性を上げるための対策をすすめていくことにしました。
主な対策は次になります
- 登録済の患者様のみを受け付ける予約システムの導入(スマホ、電話)
- 予約システムから電子カルテが起動するシステムの導入
- 電子カルテ入力により自動でレセプトデータを作成し保険請求も行えるシステムの導入
- 窓口入金はキャッシュレス決済を基本とするシステムの導入
予約の受付から治療、会計まで人の手を最小限で済ませる環境を整えることを目標とし、おおむねセット完了までに4カ月間かかりました。
これらのランニングコストは、初期費用が40万円、月額3万円程度となっていますので、一人の人件費に比べると大幅に少ないコストで導入できました。
在籍スタッフが退職し、いよいよワンオペ歯科医院となりました。
鈴木先生は、新規にスタッフを募集することを望んでおりましたが、そこはご協力いただいてしばらくワンオペを続けていただくことでお願いしました。
ワンオペ期間では、一般的には歯科衛生士が行う次のような処置も、歯科医師である鈴木先生が行うことにしました。
- 歯石除去(スケーリング)
- 歯面清掃(ポリッシング)
- フッ素塗布
- シーラント処置*
- 歯周病治療(歯周ポケット内洗浄や薬剤の塗布)
- 仮封処置(仮の詰め物)
一人で治療を行うことにより、患者様の引継ぎや伝達が不要となりむしろ短時間で終わり、時間効率としては悪い影響は無かったそうです。
一般的に受付助手が行う受付から会計までの処理は前述のシステム対応としました。
- 電話やメールの対応
- 患者の受付と診療代精算
- カルテの管理
- レセプトのとりまとめ
高齢の患者様は新しいシステムへの対応が難しいところがあり、結局は鈴木先生が電話で応対することが課題として残りましたが、大半の患者様からは便利になったと評価され、対応時間も以前に比べると大きく削減されました。
一般的に受付助手が行う発注処理や洗浄操作は鈴木先生が直接処理をしました。
- 歯科材料の発注と検品
- 歯科技工所への発注と検品
- 医療用洗浄機や滅菌器の操作
発注と検品は空いている時間にネットで全て処理し、洗浄はセットしてスイッチ入れる程度で大きな負担はないということでした。
この他、外部委託が馴染む処理、例えば院内の清掃などは、外部専門業者に定期的に委託することにしました。
ワンオペ歯科医院の状態を一度経験してみて、鈴木先生は、
「思った以上に一人だけでもできるし、深刻なエラーも出なかった。」
「長めにチェアタイムをとることで患者様とのコミュニケーションがとりやすかった」
との感想でした。
(7)ワンオペ歯科医院、初年度のキャッシュフロー
ワンオペ歯科医院のメリットは高いコストパフォーマンスにあります。
引継初年度の収支でその差を見てみます。
在籍スタッフが2人とも残っている期間は、2人分の人件費として1月当り72万円(社会保険料含む)が必要でした。年間換算では864万円です。
初年度の3月毎の収支を見た場合、在籍スタッフ2人分の給料が発生する1-3月は、院長の給料に相当する院長利益は、1月当り46万円となりました。在籍スタッフ1人分の給料が発生する4-6月は、院長利益は1月当り82万円となりました。
スタッフゼロとなったワンオペ期間は外部人件費が発生しないため、院長利益は1月当り118万円となりました。
実際には、ここから借入金の返済として33万円が引かれるため、手取りは下がります。
2人分の給与を支払った後の1-3月の院長利益は13万円しか残りませんので、生活すらままならないレベルです。
引継初年度の収支状況
1-3月 | 4-6月 | 7-9月 | 10-12月 | 初年計 | |
診療収入 | 660 | 660 | 660 | 660 | 2640 |
技工・薬剤費 | 165 | 165 | 165 | 165 | 660 |
給料 | 216 | 108 | 324 | ||
その他経費 | 141 | 141 | 141 | 141 | 564 |
院長利益 | 138 | 246 | 354 | 354 | 1092 |
※万円単位
※利益は損益上ではなく資金上の利益
※その他経費内訳は家賃25万円と諸経費10%
初年度の後半半年は、常勤スタッフ無のワンオペで運営しました。
その期間の収支はきわめて良好な結果となりました。
ワンオペ歯科医院の期間はそれなりに忙しくなるにしても、人件費を抑えて院長の利益を大きくすることができます。経営的にはかなり有利であることが確認できました。
(8)ワンオペ歯科医院、各年毎のキャッシュフロー
人件費を抑えたワンオペ歯科医院は院長の収入を大きく増やすことができます。
過去の患者様でしばらく足が遠ざかっていた方には、院長交代と定期健診のお知らせを発送しました。お知らせの発送は全て外部の印刷業者に委託ました。
患者様は少しずつ戻ってきていて、診療収入は徐々に増えている状況です。
その後どうなったのか、複数年の収支状況で見ていきます。
準備期間以降の収支状況
準備 | 初年 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | |
診療収入 | 2640 | 2746 | 2856 | 2970 | |
技工・薬剤費 | 660 | 686 | 713 | 742 | |
給料 | 324 | 340 | 357 | 375 | |
その他経費 | 564 | 575 | 587 | 599 | |
院長利益 | 1092 | 1145 | 1199 | 1254 | |
設備投資 | -3400 | ||||
(借入・返済) | 4000 | -400 | -400 | -400 | -400 |
(資金残) | 600 | 1292 | 2037 | 2836 | 3690 |
※万円単位
※利益は損益上ではなく資金上の利益
※その他経費内訳は家賃25万円と諸経費10%
2年目からは鈴木先生がオーバーワークなり、歯科衛生士をパートで採用することになりました。 採用にあたっては、子育て中の女性が働きやすい条件にしたところ、経験も充分で質の高い方からの応募があり、すぐに決まりました。
勤務時間は、午後13時から17時までの4時間で、子供さんの学校行事があれば自由に休んでもらっています。パートさんが不在のときは自分で全てやることになりますが、急ぎでないことはほとんどやってもらえているので、これで十分と考えています。
パートの時給は、歯科衛生士の相場並みの時給1800円にしています。
パートの歯科衛生士が働いている時間帯は、ワンオペ歯科医院ではありませんが、ワンオペでもできるという自信から、
「人手を増やさないと業務がまわらない」「スタッフに辞められないよう気を使いすぎる」
という恐怖感が無くなり気が楽でいられるそうです。
(9)ワンオペ歯科医院は究極の効率化、規模拡大にも役立つ
鈴木先生は、引継後4年目にして、名目上資金残高が借入残高を上回り、無借金経営となりました。税引き前の年間収入が1500万円と充分な成果が上がっています。
これだけ早期に成果を上げられたのは、効率的な経営によるものです。
患者様は順調に増えており、パート歯科衛生士含めた部分的なワンオペでは既に回らないほどになっています。
鈴木先生としては、
「自分はマイペースなのでこの状態が心地よい」
とのことでさらなる規模拡大にはそれほど意欲はないとのことでした。
中には、歯科医師としての収入をどれだけ増やせるか試してみたいと、意欲的な先生もいることでしょう。
規模拡大を目指すにしてもワンオペ歯科医院は、最大限の効果を発揮します
歯科医院としては、分院経営という形態もあります。
分院を新設する場合にも、最初に効率的なシステム導入や体制を整えておくことで、スタッフ数を必要最小限の人数で業務をまわすことができるようになり、歯科医院グループ全体に恩恵をもたらします。
最小限の人数で業務をまわすせる体制は、シフトを柔軟にし、歯科医院としての営業時間の延長や休日数の削減にも対応することがしやすくなります。
それぞれのスタッフも、効率的なシステムの恩恵により患者様の対応に労力を注ぐことができ、より高い報酬を得られるようになります。
より高い報酬の歯科医院には優秀なスタッフが集まりやすくなります。
(10)まとめ
令和6年診療報酬改定にみられるように、保険医療の報酬は今後も削減されていくことは間違いありません。
- 労働人口の減少による人手不足と人件費高騰
- 物価高による器材の高騰、システム投資負担
- 患者様となりうる居住人口の減少
歯科医院の経営にはますます厳しくなることが予想されます。
実現性の低い事業計画にのってしまい開業後に10年20年も借金を返済するだけに陥っている歯科医院を多く見てきました。
経営難から家庭不和となってしまった方もいます。
経営難となった状態から復活させるためには2倍3倍の労力と時間を必要とします。
開業当初から効率的に経営を想定してスタートすることで、十分に避けられるリスクです。
ワンオペ歯科医院は、人手不足に対応した効率経営の形態です。
よりよい人生のために選択した開業が花開くことを願ってやみません。