歯学部のコスパランキング

(1)歯科医師一人当りの人口は半分以下に、売上も半減?

これからの歯科医師の経営は、競争さらに厳しさを増しさらに厳しい状況になっていくと予想されます。 背景には、人口の減少と歯科医師の増加が続いていくという2つの要因があります。


日本の人口は、によると2070年には8,700万人程度にまで減少するとされています。(国立社会保障・人口問題研究所の将来推計)
歯科医師数は、2018年を境に集計手法が変わりその前後の単純比較ができませんが、2017年までは毎年2000人から2800人が登録(歯科医籍登録者数)されていました。2018年からは都道府県への届出件数に変わり毎年500人となっています。


2018年以降の歯科医師国家試験合格者数を見ると毎年2000人となっており、実際には500人から2000人の範囲で増加しているといえ、増加傾向は変わらない状況といえます。


人口減少と歯科医師数の増加をクロス分析すると次の表のようになります。

表2-1 歯科医師一人当たりの人口推移予測

総人口(万人)同増減率歯科医師数(人)同増減率歯科医師一人当り人口(人)同増減率
2020年12,615 105,2671,198
2030年11,662-8%104,9340%1,111-7%
2040年10,591-16%106,3681%995-17%
2050年9,515-25%121,47015%783-35%
2060年8,640-32%151,25344%571-52%
2070年8,700-31%196,81187%442-63%

注1)総人口は、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(中位推計)」2023から
注2)歯科医師数の2020年は、厚生労働省の「令和4年(2022年)医師・歯科医師・薬剤師統計」から
注3)歯科医師数の2030年以降は、減少は高齢層のリタイア、増加は歯科医師登録届出の5か年平均500人と国家試験合格者数の5か年平均2000人の中間値1250人とした

歯科医師数の増加は、2018年以降の届出件数の年平均500人と国家試験合格者数の年平均2000人の中間をとり1250人とにしました。
人口を歯科医師数で割った歯科医師1人当たり人口は、2020年の1198人から一貫して低下し続け、2070年には442人と63%減少します。


歯科医師にとって1人当たりの人口が減ることはそれだけ競争が激しくなり、売り上げが減少することを意味します。 単純計算では、50年後には売上は現在の4割になることが予測されます。
歯科医師の資格者数のさらなる絞り込みといった政策変更がない限り、この傾向は変わりません。


歯科医院が競争を生き残るためには次の2つの対策が重要になります。

「特色ある診療を行う」

「経営コストを下げる」

「特色ある診療」としては、むし歯の罹患率を下げる予防、審美歯科、高齢者向けの訪問診療、口腔ケアといった分野で特色を出していくことなどが考えられます。 「経営コストを下げる」としては、ICTやAIの活用によるデジタル化を進めることが考えられます。

(2)AIを使いこなす歯科医師は勝ち残る

AIの進化はさまざまな業界に変化をもたらし、多くの職業がAIに取って代わられるといわれています。その中で、歯科医師はAIにより仕事を奪われにくい職業とされています。
その理由は、

  • 手技(ハンズオン)中心の職業であること
  • 人間との対話・観察力が必要とされること
  • 治療方針が一律でなく、ケースバイケースの対応が求められること
  • 法律による制約があること

によります。
AIはますます進化していくことは確実ですが、歯科医師にとっては診療や業務を「補助」する良きパートナーとなっていくと予想されています。

  • レントゲン診断支援(むし歯、歯周病の自動検出)
  • 治療計画の最適化(矯正・インプラントシミュレーション)
  • 医療事務やカルテ入力の自動化

など
歯科医師は次のように、AIが苦手とする細やかな手技やコミュニケーションに磨きをかけることで、他の歯科医院との差別化を打ち出しつつ、AIの得意分野はAIをフル活用して、効率的な経営を行っていくことが不可欠になっていくと考えられます。

  • 細かい器具操作・患者の口腔内での微妙な感覚を大事にする手技に磨きをかける
  • 患者さんの訴えを会話や表情から読み取り不安を和らげながら治療を進めるコミュニケーションを高める

(3)私立大歯学部のコスパ最強は明海大学、時点は朝日大学

歯科診療所の経営は今後厳しくなると予測されます。

(1)歯科医師一人当りの人口は半分以下に、売上も半減?

しかし、歯科医院の経営が厳しくなるといっても、他の業界はこれ以上に厳しく、他業界と比べると将来的にもコストパフォーマンスが高い職種であることは変わりません。


売上(パフォーマンス)が下がっていくと予測されるにしても、それに応じてコストを抑えることができれば、経営的には成り立ちます。
ここからは、歯科医師になるまでのコストという視点でどこの大学がコスパが高いかを比較します。
これから歯科医師の道に進もうとされる受験生やそのご両親の判断の一助になれば幸いです。


まず一般的な認識として、歯学部は私立の学費は非常に高額で一般家庭には負担が難しい、国公立は学費こそ少ないが学力がかなり高くないと入れない、というものがあります。
そこで学費が高いといわれる私立大学歯学部をコスト比較すると次のようになりました。

表3-1 私立大学歯学部のコスパランキング

順位大学名学費6年間(円)入学偏差値偏差値コスト国試合格率(116回)留年コストコスト総額
1明海大学17,930,00042.52,100,00058.10%657,80020,687,800
2朝日大学17,930,00042.52,100,00059.30%1,253,60021,283,600
3奥羽大学21,500,000453,150,00060.00%1,400,00026,050,000
4日本歯科大学(新潟生命歯)21,000,00047.54,200,00065.20%1,183,20026,383,200
5松本歯科大学25,280,000453,150,00061.70%1,608,60030,038,600
6鶴見大学26,250,00042.52,100,00055.00%2,047,50030,397,500
7北海道医療大学24,600,00047.54,200,00062.50%1,687,50030,487,500
8神奈川歯科大学27,000,00042.52,100,00057.60%1,908,00031,008,000
9福岡歯科大学27,250,000453,150,00060.80%1,705,20032,105,200
10岩手医科大学27,600,00047.54,200,00063.40%1,573,80033,373,800
11日本大学松戸歯学部29,400,00042.52,100,00054.20%2,061,00033,561,000
12昭和大学27,000,000557,350,00070.30%1,336,50035,686,500
13愛知学院大学31,141,000453,150,00059.80%1,809,00036,100,000
14日本大学歯学部31,940,00042.52,100,00054.20%2,061,00036,101,000
15日本歯科大学(生命歯)31,380,00047.54,200,00065.20%1,566,00037,146,000
16大阪歯科大学31,500,000505,250,00066.70%1,498,50038,248,500
17東京歯科大学32,142,000588,610,00072.50%1,237,50041,989,500

この比較では、学費の総額に加えて、入学難易度(偏差値)、留年となった場合の授業料負担、についてもコストとして反映しました。


偏差値コストは、偏差値62.5の入学のために必要な学習時間7000時間として、偏差値37.5は学習時間がゼロ(全入)レベルとして、時間単価1500円で偏差値1当り420000円と設定してコスト評価しました。

私立大学歯学部では、歯科医師国家試験の合格が見込めない学生を留年させる傾向があります。留年率は公表資料がないため、代替データとして不合格率(1-合格率)に年間授業料をかけてコスト評価しました。

6年間の学費、偏差値コスト、留年コストを合計したものがコスト総額です。
この比較では、明海大学が2100万円以下となり最もコスパが高くなりました。
以下、ほぼ僅差で朝日大学、500万円ほど増えて奥羽大学、日本歯科大学となりました。

(4)国公立大歯学部のコスパは新潟大学。次いで九州歯科大学

同じ条件で国公立大学を比較しランキングにしました。
国公立歯学部は、そもそもの学費は低いためどの私立大学歯学部に比べてもコスト総額は低くなります。
その中では、比較的偏差値が低めの新潟大学が最もコスパが高くなりました。


次点は公立の九州歯科大学です。
コスパが最も低くなるのは最難関の東京医科歯科大学歯学部でした。

表3-2 国公立大学歯学部のコスパランキング

順位大学名学費6年間(円)入学偏差値偏差値コスト国試合格率(116回)留年コストコスト総額
1新潟大学3,496,80052.56,300,00084.50%83,0009,879,800
2九州歯科大学(公立)県外枠3,734,80052.56,300,00077.20%122,20010,157,000
3鹿児島大学3,496,80057.58,400,00080.40%105,00012,001,800
4九州大学3,496,80057.58,400,00073.70%140,90012,037,700
5東北大学3,496,80057.58,400,00071.40%153,20012,050,000
6徳島大学3,496,80057.58,400,00064.90%188,10012,084,900
7長崎大学3,496,800609,450,00089.80%54,70013,001,500
8岡山大学3,496,800609,450,00087.90%64,80013,011,600
9北海道大学3,496,800609,450,00083.90%86,30013,033,100
10大阪大学3,496,800609,450,00083.60%87,90013,034,700
11広島大学3,496,800609,450,00079.00%112,50013,059,300
12東京医科歯科大学3,496,80062.510,500,00087.70%65,90014,062,700

国公立大学では学費の差はありませんが、入学偏差値に開きがありその点がコストに反映される結果となりました。いずれにおいても国公立大学の歯学部に入学できる学力があるならば、国公立に進むことが最もコスパは高い選択といえます。

(5)コスバ重視の併願ならこの組み合わせ

大学受験ではほとんどの受験生は国公立と私立を併願されます。
歯学部受験ではつぎのような特徴があります

  • 国公立の歯学部の場合、医学部から切り替える受験生が一定数加わり難化する
  • 自宅から離れて入学することを厭わない傾向がある
  • 両親いずれかが医師・歯科医師の場合はコスパの優先度は低く、そうでない場合はコスパ優先度が上がる

コスパで大学歯学部をランキングしてみたところいくつか興味深いことがわかりました。

リンク(3)私立大歯学部のコスパ最強は明海大学、時点は朝日大学

リンク(4)国公立大歯学部のコスパトップは新潟大学。次いで九州歯科大学

私立大学歯学部のコスパトップの明海大学は歯科医師になるまでに2068万円、国公立大学歯学部でコスパが低い東京医科歯科大学では1406万円、とその差は662万円しかなく意外に差がないことがわかりました。


これから歯学部に入って将来は歯科医師として活躍・開業を考えるならば、
国公立大学では、入学のしやすい、新潟大学か九州歯科大学を選び、
私立大学では、入学しやすくコストも低い、明海大学、朝日大学を選ぶ
というのがおすすめの選択になります。


大学選びは、自宅から通えるかどうか、その大学に思い入れがあるかどうかなど、さまざまな選択要素があります。 
コスパによる志望先選びはその判断材料の一つに過ぎませんが、その選択の一助となれば幸いです。