人手不足への対策
2024年上半期(4月から9月)の国内の倒産件数は5095件となり、昨年度の同じ時期と比べて17.8%増加、年間ベースでは11年ぶりに1万件を超える可能性があるとされています。
倒産の要因として「人件費の高騰」など人手不足に関連したものが前年同期比+80.4%と急増し、人手不足問題はより深刻になっています。(東京商工リサーチ)

この記事まとめ
(1)有力な人材採用方法-「求人ポータルサイト」、「人材採用会社による採用」
(2)採用数は少ないが効果的な方法-「リファラル採用(社員紹介制度)」、「SNSの活用」
(3)低コストの人材採用方法-「自社採用サイトの活用」、「ハローワーク(公共職業安定所)」
(4)余力があれば取組みたい-「就職イベント出展、企業説明会」、「各種の学校との提携」
(5)外部のリソースで補う-「派遣社員の受け入れ」、「クラウドソーシングの活用」
[2]人材不足の解消を生産性改善で底上げ
(6)業務プロセス見直しによる改善-「RPA」、「AI機械学習」、「ペーパーレス化」
(7)社内外の情報共有で業務処理を高速化-「クラウドサービス」、「業務管理システムERP/CRM」、「デジタルワークフロー」
[1]人材不足を解消するための人材採用
人手不足が倒産にまでつながる状況をどのように解消していくか、まず基本的な解消法となる人材採用について、説明します。
(1)有力な人材採用方法-「求人ポータルサイト」、「人材採用会社による採用」
多くの会社は、求人ポータルサイト、人材紹介会社を使って人材を採用しており、現在の人材採用の主流となっています。
求人ポータルサイトへの掲載
有力な求人サイトに直接求人広告を出すことにより、多くの応募が期待できます。
Indeed、リクナビNEXT、マイナビ転職など、大手求人サイトは、多くのユーザーを抱えています。
掲載費用は発生しますが、人材紹介会社に比べると採用コストは低く抑えられます。
人材採用会社による採用
高コストですが最適な人材を採用するのに適した方法です。
人材紹介会社を通じて正社員を採用する場合、採用者の年収に基づいた手数料が発生します。一般的には、年収の20%〜35%、例えば年収500万円の候補者を採用した場合、手数料は100万円(年収の20%)から175万円(年収の35%)となります。
(2)採用数は少ないが効果的な方法-「リファラル採用(社員紹介制度)」、「SNSの活用」
採用数としては少なくなりますが、「リファラル採用(社員紹介制度)」、「SNSの活用」はコストを抑えるだけでなく、自社に最適な人材を効果的に採用する方法です。
リファラル採用(社員紹介制度)
社員からの紹介を通じて、知人や友人などの信頼できるネットワークから採用する方法です。
すでに社内文化に適応している人材の推薦であるため、ミスマッチが起こりにくく、質の高い応募者を見つけやすいのが特徴です。
紹介者に対して報奨金などのインセンティブを設定するため、社員が積極的に協力することが期待できます。
紹介者への報奨金に対して質の高い人材が採用できることが多く、コストパフォーマンスの高い方法です。
SNSの活用
LinkedIn、Twitter、FacebookなどのSNSを使って、ターゲットとなる人材に直接リーチする方法です。
企業の公式アカウントを活用した求人情報を発信により、無料又は低コストで求人情報を多くの人にアプローチできます。
特にLinkedInはビジネスプロフェッショナルへの訴求力があり、専門性の高い人材へのリーチに効果的です。
(3)低コストの人材採用方法-「自社採用サイトの活用」、「ハローワーク(公共職業安定所)」
「自社採用サイトの活用」、「ハローワーク(公共職業安定所)」を通じた人材採用は、それぞれ単体では高い効果は望めません。 しかし、ほぼ無料であることはメリットですので、他の方法を補う方法としては有効です。
自社採用サイトの活用
自社のウェブサイトに採用ページを設けて、募集要項を掲載し、応募者を直接集めます。
企業の文化やビジョン、ミッションを詳細に紹介し、求める人材像を明確に伝えることができ、応募者が企業に直接興味を持ってくるため、質の高い応募が期待できます。
ハローワーク(公共職業安定所)
日本の公共機関であるハローワークを利用した人材募集です。
掲載費用がかからないため、コストを気にせず募集できることは予算の少ない中小企業にとっては有効な手段です。 ただし、マッチングが求職者まかせの傾向が強く、「自社が求める人材像とかけ離れた応募が多い」という採用責任者の声が少なからずあります。
(4)余力があれば取組みたい-「就職イベント出展、企業説明会」、「各種の学校との提携」
「就職イベント出展、企業説明会」、「各種の学校との提携」の方法は、採用数が一定数はあり、ある程度の予算をかけられる場合には、有効となる方法です。 どちらの方法も企業側として求めている人材像を探しやすいというメリットがあります。
就職イベント出展、企業説明会
就職イベント(キャリアフェア)への出展や企業説明会を開催することにより、直接求職者と面談します。
イベントを通じて応募する求職者は就職意欲が高く、その業界や職種に関心が持つ人材です。
直接対話できるため、相手の人柄や意欲を直接確認できる利点があります。
新卒採用を目的としたインターンシップ制度や、合同説明会を通じて学生に直接アプローチする方法で、特定のスキルを必要とする人材採用に有効です。
大学や専門学校といった教育機関と継続的な関係を築くこと、毎期安定して人材を採用することが前提になります。
(5)外部のリソースで補う-「派遣社員の受け入れ」、「クラウドソーシングの活用」
「派遣社員の受け入れ」、「クラウドソーシングの活用」は、短期間での人員補充や業務の遂行に効果的な方法です。 専門性を必要とする職種の補充には適しており、人材不足のミスマッチを補う方法として積極的に活用する企業は増えています。
派遣社員の受け入れ
派遣労働は、派遣会社が労働者を雇用し、他の企業に派遣して働いてもらう形態です。
同じ職場での派遣労働者の就業期間は原則3年までとされ、一定の条件を満たすと無期雇用に転換されます。
港湾運送業や建設業、警備業など、いくつか職種では派遣が禁止されています
派遣社員を受け入れる場合、派遣社員の時給や給与に加え、派遣会社側のマージン(利益)30%〜50%が上乗せされた料金となります。 例えば派遣社員の時給が1500円であれば、企業は時給2000円〜2250円程度を派遣会社に支払うことになります。
クラウドソーシングの活用
正社員採用ではなく、プロジェクトベースでフリーランスやクラウドソーシングサービスを利用するケースは増えています。 特定のプロジェクトに対してスキルを持つ人材をすぐに見つけられるため、急なニーズへの対応がしやすく、中小企業から大企業まで幅広く活用されています。
クラウドサービスを提供するプラットフォームには、クラウドワークス、Upwork、Lancers、などがあります。
[2]人材不足の解消を生産性改善で底上げ
人材不足には2つの要因があります。それは、
◆そもそも労働力となる人口が減っていること
◆待遇を上げた人材募集ができないこと
労働力人口の減少は、企業の努力では改善しない外的要因です。
企業としては、この環境に合わせて経営するしかありません。
待遇を上げる、つまり募集賃金を上げると人材は集まりやすくなります。
しかし給料を上げると赤字になる、借入も返せなくなる、と二の足を踏む経営者は多いです。
給料を上げるのは無理だから会社を閉めてしまおう、とあきらめた結果が倒産件数の増加に表れています。
あきらめる前に検討していただきたいのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)です。
例えば、現在2人で行っている業務を1人でできるように改善できたら、その業務における給料は1人分しか必要なくなります。 その業務1人分の給料を現在の1.5倍にしても、会社としては利益が残り、業務担当としても給料が増えて不満がなくなります。
DXは、デジタル技術を活用して業務プロセスを自動化・最適化し、生産性を向上させることを目指します。
以下では、DXを使って少人数でも効果的に業務を遂行する具体的な方法を説明します。
(6)業務プロセス見直しによる改善-「RPA」、「AI機械学習」、「ペーパーレス化」
RPA業務プロセスの自動化(ロボティック・プロセス・オートメーション)
RPAツールを導入することで、反復的な事務作業やデータ入力を自動化できます。これにより、従業員は手動で行う必要のない単純作業を省き、より高度な業務に集中できます。
ルーチン作業の多い、経理業務(請求書処理や経費精算)、人事管理(勤怠データの集計)、営業(顧客リストの更新やフォローアップメールの自動送信)などではRPAの活用により、少人数でも多くの作業をこなせるようになります。
AIと機械学習の活用
AI(人工知能)は、データ分析や予測、カスタマーサポートなどさまざまな分野を自動化し、少人数で高度な意思決定や顧客対応を行うことを可能にします。
ZendeskやFreshdeskなどのカスタマーサポートのAIチャットボットでは、よくある質問への対応を自動化し、人的対応が必要なケースを減らすことが可能です。
SalesforceのEinsteinなど営業予測のAIツールでは、過去のデータから売上予測を自動的に算出し、営業戦略の効率化をすすめます。
ペーパーレス化の推進
できるかぎり書類やプロセスをデジタル化・ペーパーレス化することにより、書類の作成、管理、配布の手間を減らし、物理的な作業を削減できます。
ペーパーレス会議システムの導入、会議資料や議事録を電子化、を行うことにより無駄な書類作業を削減することができます。 紙や資材の使用量を削減することにもなります。
(7)社内外の情報共有で業務処理を高速化-「クラウドサービス」、「業務管理システムERP/CRM」、「デジタルワークフロー」
クラウドサービスの活用
業務のクラウド化は、場所を問わない作業環境を可能にします。 チームメンバーがリモートで効率的に連携できることにより、出張や移動時間の削減、ワークフローが効率化します。
Google WorkspaceやMicrosoft 365などによる、文書、スプレッドシート、プレゼン資料をリアルタイムで共同編集できる環境を整えることで迅速な対応が可能になります。
業務管理システムERP/CRMの導入
ERP(Enterprise Resource Planning)、CRM(Customer Relationship Management)などのシステムは業務の一元管理を可能にします。
SAPやNetSuite などERPシステムでは、購買、販売、在庫、財務の全てを一元管理し、重複作業や人的ミスを削減します。
SalesforceやHubSpotなどCRMシステムでは、顧客データを管理し、営業活動を自動化・最適化し、営業担当者の負担を軽減します。
デジタルワークフローの最適化
デジタルワークフローシステムは、書類のやり取りや承認プロセスを自動化し、手動での承認作業や確認作業を最小限にします。これにより、業務プロセスは短縮され、少人数でもスムーズな業務運営が可能になります。
DocuSignやAdobe Signなど電子署名システムは、契約書や書類の確認・署名プロセスをオンラインで完結させることを可能にします。
Trello、Asana、Monday.comなどプロジェクト管理ツールは、タスクやプロジェクトの進捗をリアルタイムで管理し、チーム全体の作業の効率化に貢献します。
DXは、少ない人材で業務を効率的に行うことを可能にします。
ムダを省いて生まれた余剰人材は、不足する業務分野に再配置することで、より高い成長を可能にします。
圧倒的に労働力が不足している経営環境においては、DXは避けては通れません。
積極的に会社全体でDXに取り組みが、企業の生き残りの条件になっていくと予想されます。