人手不足の状況と原因
関係のある会社からの要望のなかで、増えているものの一つに、次のようなものがあります。
「嘱託社員から嘱託定年(65才)となり体調がすぐれないためできるだけ早くで退職したいといわれている。 しかし、代わりを募集しても応募が少ない。 応募があっても給料が見合わず採用にはいたらない。 どうしたらいいか?」

この記事まとめ
(1)働き手がいない-求人倍率も賃金も上昇
(2)人手が足りている職種、不足する職種は固定化しつつある
(3)求人倍率と募集賃金は専門性に比例して高くなる
(1)働き手がいない-求人倍率も賃金も上昇
少子化で若年層が減り、採用はますます難しくなっています。
職種別の有効求人倍率を見ると、ほとんどが1倍を超えている状況にあり、職種によってはかなりの働き手不足になっています。
表は2024年における職種別の有効求人倍率と募集時の賃金を示したものです。
職種別の有効求人倍率と平均募集賃金の比較表
職種 | 有効求人倍率 | 募集賃金(年収) |
事務職 | 0.8 | 約300万円〜450万円程度 |
製造業 | 1.2 | 約250万円〜400万円 |
ITエンジニア | 3.5 | 年収400万円〜700万円* |
医療介護職 | 2.8 | 年収300万円〜450万円 |
小売業 | 1.0 | 年収250万円〜350万円 |
教育職 | 0.9 | 年収300万円〜500万円* |
建設業 | 2.0 | 年収350万円〜550万円 |
職種により求人倍率や募集賃金には比較的大きな違いがあります。
事務職の平均的な募集年収は約300万円〜450万円程度。特に経理や総務などの専門職においては上限が高くなっています。
製造業では、一般的な製造業の年収は約250万円〜400万円ほどです。高度な技術を必要とする製造職ではさらに高い年収が期待されます。
ITエンジニアは、IT業界は特に高い募集賃金が提示されており、年収400万円〜700万円が相場です。スキルレベルや専門性が高いほど賃金も高くなる傾向にあります。
医療介護職は、年収300万円〜450万円が一般的ですが、介護職員としての経験や資格によって上下することがあります。特に看護師や専門的な資格を持つ職種ではさらに高い年収が期待されます。
小売業では、一般的に年収250万円〜350万円程度が相場であり、販売管理職などの役職者ではそれ以上の水準が見られます。
教育業界では、学校の種類や地域によって異なりますが、年収300万円〜500万円の範囲が一般的です。私立校や専門学校などではさらに高い給与が提示される場合もあります。
建設業の募集賃金は、職種や技能により大きく異なりますが、一般的には年収350万円〜550万円程度。特に技能が必要な建設技術者や現場監督はさらに高い賃金を得ることができます。
職種ごとに違いはありますが、
「有効求人倍率が高ければ高いほど、募集賃金も上がる、ということはない」
ということが言えます。
求人倍率と募集賃金はある程度は相関関係にありますが、一定以上になっても募集賃金は頭打ちのまま、ということがわかります。
(2)人手が足りている職種、不足する職種は固定化しつつある
それぞれの職種をさらに細かく分類してみてみます。
ここでは、事務職についてさらに細分類していくつかの職種ごとに比較してみます。
2024年における有効求人倍率と募集賃金です。
事務職の細分類
職種 | 有効求人倍率 | 募集賃金(年収) |
一般事務 | 0.7 | 300万円〜400万円 |
営業事務 | 1.0 | 350万円〜450万円 |
経理・財務事務 | 0.9 | 400万円から600万円 |
人事・総務事務 | 0.8 | 350万円〜500万円 |
秘書 | 0.6 | 300万円〜450万円 |
事務職をさらに細分類して、有効求人倍率と募集賃金(年収)をみていくと、ある程度比例した関係がみてとれます。
一般事務の平均年収は300万円〜400万円程度です。業界や企業の規模によって多少の差が見られますが、比較的賃金水準は他の事務職に比べて低めです。
営業事務は、一般事務より少し高めで350万円〜450万円程度の年収が多いです。営業活動のサポートやデータ管理、顧客対応など、幅広い業務を担当するため、比較的需要も高い職種です。
経理・財務事務は、経理・財務の専門職として、400万円〜600万円の年収が一般的です。特に資格を持っている場合や、企業規模が大きいほど賃金が高くなる傾向があります。
人事・総務事務は350万円〜500万円程度が平均的な年収です。採用、労務管理、社員の福利厚生業務など多岐にわたる業務を担当するため、企業規模により賃金水準が変動します。
秘書職は、300万円〜450万円程度の年収が多く見られます。上司や役員をサポートする業務内容によって変動があり、特に外資系企業や大手企業では賃金が高い傾向にあります。
(3)求人倍率と募集賃金は専門性に比例して高くなる
事務職を分類したなかでは、経理・財務事務が最も募集賃金が高くなっています。
この経理・財務事務について、10年前と現在を比較してみます。
求人数の増加
10年前と比較して、経理・財務事務の求人は増加しています。主な要因としては、デジタル化の進展、特に電子帳簿保存法やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進による影響が挙げられます。これにより、従来の経理業務に加え、ITスキルやシステム管理を必要とする求人が増加しました。
募集賃金の増加
10年前の経理・財務職の平均年収は約350万円から450万円程度でした。 2024年には400万円から600万円といった水準となり、10年前と比較して全体的に上昇しています。
特に、東京などの都市部では、経理・財務の専門スキルを持つ人材への需要が高まっているため、募集賃金も上昇しています。
求人数と募集賃金の増加要因
これには2つの要因が考えられます
スキルセットの変化
企業は従来の経理スキルに加えて、システム操作やデータ分析などのITスキルを求めるようになったため、これが賃金上昇の要因となっています。
労働市場の状況
10年前に比べて労働力不足の状況が深刻化していることも、賃金上昇に寄与しています。特に、東京では有資格者や経験者への需要が高く、賃金が上がる傾向が見られます。
全体として、経理・財務事務を例にすると、10年前に比べて求人数、募集賃金、ともに上昇しています。
これは、業務のデジタル化やリモートワークの普及、さらには労働力不足による影響が大きいです。
冒頭でご紹介した会社も、退職していく社員の穴を埋められない、という切実な状況にありますが、同じような状況の会社も多いのではないでしょうか。
少子化による労働力不足だけではなく、業務のデジタル化といった構造変化が原因となり、募集しても人材を採用できないということにつながっています。